泣きムシ1。
オレは泣き虫だった。
オレの視界が母の脚くらいしかなかったころのテレビは毎日お祭り騒ぎだった。
嫌なことがあって独り台所でたまに出てくるゴキブリに泣きごとを聞いてもらっていたときも、兄や妹や母がテレビをみて笑い声を共有していた。
父は実力のない、さすらいのギャンブラーだかで家の食費や家賃も持ち出し麻雀や賭けビリヤードをしていた。
そんな父のことはあまり覚えてない。
そんな不穏なじめじめした空気が漂う我が家は、その限りなくグレーなものを清浄してくれるテレビに救われてたんだろう。
暗い台所の隅で誰かが誰かの真似をしてるメロディが聞こえる。
グレーな我が家の雰囲気に合わない歌が聴こえる。妙に明るいカレーのコマーシャルが鳴ってる。
そんなときはいつもオレは自分の涙でドラえもんを描いていた。
その上をゴキブリがはっていた。
「ほんとうるさいねぇ、テレビが聞こえないじゃないねぇ?」
とオレ以外で笑い合ってたのを今も忘れない。
父の不貞は続きにわかギャンブラーの結末は家を売るということで着地した。帰ってきては消える、戻っては消える。そんな波のような人。
母はいつもイライラ、いつも般若のような顔をしていた。